2017 FIM MotoGP 日本グランプリ 津田拓也 MotoGPを語る
日本GP開幕直前
「世界最高峰」と謳われるMotoGPが、いよいよ日本にやってくる!
スズキ・MotoGPマシンGSX-RRの開発ライダーであり、
全日本ロードレースではヨシムラスズキのエースライダーとして、
新型GSX-R1000Rでランキングトップ(10/2現在)を走る津田拓也選手に
MotoGP直前インタビュー!
津田拓也 MotoGPを語る
── 2015年からMotoGP開発ライダーを担当して今年で3シーズン目。さらに今年は第4戦スペインGPにリンス選手の代役として実戦参加し、MotoGPのレースも経験しました。そんな津田選手の見たMotoGPのリアルな中身は、どんなものでした?
津田 まずレースの空気感がぜんぜん違いますね。特に今のMotoGPはタイヤがワンメイクだったりして、ちょっとした条件の変化で結果が大きく変わってきてしまう。僕が参戦したスペインGPでも、優勝争いに常に加わっているバレンティーノ・ロッシ選手が決勝で10位とか、通常では考えられないようなことが起きました。それが現在のMotoGPなんです。だから、その張り詰めた緊張感というのは、世界最高峰のレースらしい特別なものです。
── 実際にレースを走ってみての印象は?
津田 恐らくファンの皆さんとかはTVなどでMotoGPライダーの走りを見て、とんでもないライディングだと思うでしょうね。フロントタイヤとかリアタイヤとかズリズリ滑らせて、アウトでもインでもどこからでもコーナーに入っちゃう、とか。でも実際にあの中で一緒に走ると、彼らは全員が基本にめちゃくちゃ忠実なんです。コーナリングでのアウト・イン・アウトはもちろんコース幅を目一杯使い、アウトはギリギリまで外に出るし、インに付くのもセオリー通り。そういう基本に忠実な部分をきっちりやりながら、そこにそれぞれの味というか自分の武器をプラスアルファしている。その中で走ってみて、自分はまだまだ基本ができてないと痛感しました。バイクの操作も超スムーズですし、基本を外したとんでもないライディングをするようなライダーは一人もいません。
津田拓也 MotoGPを語る
── そんなMotoGPの世界でスズキGSX-RRをライディングするアンドレア・イアンノーネ選手とアレックス・リンス選手はどんなライダーですか?
津田 アンドレアは暴れん坊のイメージが皆さん強いと思います。僕も最初はそう思っていたのですが、今年のシーズンオフのセパンで初めて一緒にテストしたとき、集合写真を撮ったのですが、端の方にいた僕をわざわざ呼び寄せて、中央に一緒に写ろうと声をかけてくれたんです。しかもアンドレアが僕の腰をベタベタ触ってふざけてくる。耳元で「ツダサン、ヨロシク」とかずっと言ってくるし。そんな、お茶目なところがすごくあるんです。レースやテストが終わった後、皆と話をするときもそばに来て「どうだった? 俺はこんなふうだったけど」とか積極的に意見交換してくれるし、速く走るということにすごく意欲的です。回りにも気遣いができるし。すごく情熱的だから、暴れん坊的に見えちゃうんでしょうが、実際はまったくそんなことないですよ。常にトップをねらっているし、なかなか現状は状況的に厳しいですが、なんとか打開しようと必死にもがいている感じです。
── リンス選手は?
津田 アレックスは若いし、すごい元気ですね。イメージで言うと、去年までチームに所属していたマーベリックが初めて来た時に似てます。物静かだけど常に速く走ることを考えていて、内側に闘志を秘めています。そうそう! 今年の鈴鹿8耐が終わってテストに行ったら、アレックスが『ヘイ! ツダサン!』っていつもの元気なノリで声をかけてくれたんだけど次の瞬間、僕が8耐決勝で転んだことを思い出したらしく、急に気まずそうな表情をして『レースはそんなこともあるよ』って。自分はかなり気を遣われてるな、って思いました。
── 二人のライディングに関しては?
津田 アンドレアはハードブレーキングからの鋭い突っ込みのイメージを皆さん持っているでしょうが、実はだれよりもフロントタイヤを綺麗に使いたがるです。綺麗に使うためには繊細な操作が必要で、通常はソフト目のタイヤを選ぶことになるんですが、でもそれでは彼のハードブレーキングに耐えられない。そのあたりのバランスは彼独特ですね。対してアレックスはある意味、新世代のライダーです。セパンのテストで一緒に走ったんですが、4コーナーから大きな5コーナーに切り返していくとき、普通はバイクを寝かしていくとまず膝を擦りますよね。ところが彼の場合、肘から擦っていく。それを目の前でやるから、最初はからかわれているのかと思ったんですよ。『ほら、付いて来いよ』的な感じで。ところが、次の周も同じように肘から擦っている。一度真似してみたんですが転びそうになったので、二度目は怖くてトライできませんでした。でもバイクのセッティングに関しては理解できる範疇にあります。
津田拓也 MotoGPを語る
津田拓也 MotoGPを語る
津田拓也 MotoGPを語る
── 代役参戦でMotoGPレースを経験して、何か変わりました?
津田 開発テスト走行って、ある一定のレベルで安定して走って、そこで部品の評価をしなければいけません。だから、フリープラクティスから予選、決勝という流れの中でバイクをセットアップし、タイムを詰めていくという経験はとても新鮮でしたし、テスト走行の考え方が変わりました。代役参戦を経験してから、テストで走るツインリンクもてぎでのタイムも上がりましたし。今、全日本で青いグローブを付けて走っているのですが、それもライディング中、自分の視界に入るのはグローブだけなので、そこを青にしてGSX-RRに乗ってる意識を常に持てるようにしていることなんです。ヨシムラで走ってるとつなぎの色が赤/黒なのに青いグローブしてるといろんな人に「間違えてるよ!」って言われますけど、間違ってるわけでは全然ないんですよ(笑)MotoGPマシンに常に乗っている意識でライディングできるよう、狙ってやっていることなんです。
── 他に変わった点は?
津田 レースやテストの後に彼ら二人と話をしていて、本当にレースに対して真剣ですし、チームとして良いマシンにして良いレースをしようという気持ちがヒシヒシと伝わってくるんですよね。だから、開発ライダーとしてもっと彼らの役に立ちたいと心から思います。もっともっと彼らの力になりたい。彼らのレースを現地に見に行っても、ライディングスタイルとかを見るだけじゃなく、レースの進め方とかそういう中身を見るようにして、彼らならこういうバイクの使い方をするんじゃないかとか、こういう使い方はどうかという提案ができないかとか、そういう部分まで意識して開発テストするようになりました。
── 津田選手はGSX-RRを開発しながら、新型GSX-R1000Rで全日本選手権も戦っています。そんな津田選手の目から見て、新型GSX-R1000Rはどうですか?
津田 スタンダードマシンに去年乗ったとき、電子制御のレベルの高さに驚きました。1,000ccのスーパースポーツバイクですからパワーはメチャクチャあるわけですが、冬の雪が降るような寒さでしかも雨、というコンディションもありますよね。でも電子制御によるトラクションコントロールは綺麗にパワーを抑えながら、しかも扱いやすい出力特性になっている。このままレースに出たい! って真剣に思ったくらい、素晴らしい仕上がりでした。レースの現場で培われた技術がダイレクトにフィードバックされているから、あのレベルに仕上げられたのだと思います。最高ですよ、新型GSX-R1000Rの電子制御のレベルは。
── 日本GPですが、津田選手お薦めの観戦ポイントは?
津田 ツインリンクもてぎは全体的に観客席からコースが遠いので、スピード感とか感じにくいですが、バックストレッチから90度コーナーは観客席から近いですし、全開状態からのフルブレーキングは迫力十分だと思います。GSX-RRをライディングする二人のライダーの走りもぜひ見てほしいですし、他のMotoGPライダーの走りも間違いなく楽しめます。彼ら二人はどのレースでも100%の力を出して戦っているので、チームのホームGPだからとそれ以上の力を出すことは物理的に無理だと思います。それくらい彼ら二人は常に全力を出し切って戦っています。そんな彼ら二人の全力の走りを、ぜひ応援してください。僕も現地でサポートスタッフとして、彼らを全力でバックアップしたいと思います。